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交響詩篇 エウレカセブン  ブルー・マンデーAパート

ブルーマンデー



「ベルフォレスト西、南の風風力3。トランサパランスライトパーティクル、36のち56」

 ラジオから抑揚のない声が漏れている。この声を聞くのが何度目になるのか、僕は覚えていない。何せ、毎朝聞いているものだから。

 ベルフォレスト西か、と僕は少し息を吸って身構えた。次はベルフォレスト北、僕の住んでいる地域の風力、そしてトランサパランスライトパーティクルが知らされる。

「ベルフォレスト北、東南の風風力1――」

 風力1の知らせに僕は飛び跳ねそうになった。でもまだだ。トランサパランスライトパーティクルをまだ聞いていない。

「トランサパランスライトパーティクル11、26」

「来た!」

 僕はベッドを軋ませ、起き上がった。壁にたて掛けてあるホランドのレプリカリフボードを手にし、それからホランドのポスターを一度見る。華麗にカットバックドロップターンを決めるホランド。僕のヒーローだ。

 ホランドはいつも言っている。生まれたところは関係ない。本当に必要なスポットはそいつの目の前にあるんだって。

 だから僕は、部屋を飛び出し、スクーターのエンジンを入れた。目指すは僕のスポット。朝日に染まる街を僕は駆け抜けた。


 僕が生まれてから十四年が過ぎた。もう、十四年だ。生まれてから十四年も経つのに僕の周りでは何も起こらず、かといって何かが起きる気配すら感じられないという、そんな最悪な人生だ。
「だから無理だって」

 オッサンは僕のリフを調整しながら言った。オッサンはずけずけとモノを言う人間だ。

「そんなこと言うなよ、前途有望な若人にサァ」

「何度も言ってるだろ。レントン、おめえ波を信じてないだろ」

 う、と僕は顔をしかめた。今朝の僕ときたら折角の波に乗れず、一瞬宙に浮いただけで見事にバランスを崩してしまったのだ。リフボードの調子が悪くなったのも、波乗りに失敗したせいだ。

「波を信じてないから上手く乗れねえんだ。そんなんじゃいつまでたってもカットバックドロップターンなんて無理無理」

「でもホランドは14の時にはターンを決めたって言うじゃん。俺にだってさ」

 そう、僕にだってカットバックドロップターンが出来るはずだ。その内に、きっと。でも、オッサンは欠伸を噛み殺しながら手を振った。

「ああ、ホランドな。無駄無駄、だってあいつは天才だぜ俺たちとは違うんだよ。それにあいつはノースシュア生まれだ」

 ノースシュア、リフ乗りの聖地だ。あそこにはいい波が来るらしい。リフ乗りなら一度は行ってみたい場所だ。でも。

「でもホランドはよく言ってるじゃんか。生まれたところは関係ない、本当に必要なスポットはそいつの目の前にあるんだって」

 僕の目の前にはスポットが広がっている。崖に近づくにつれ、反り返るようにして傾斜がきつくなっていく斜面。草がびっしり生えていて、波乗りに失敗したって、滅多なことで怪我はしない。擦り傷とかそんなものは、放っておけばいい。いいスポットだ。

このスポットでカットバックドロップターンを決める僕を想像すると、思わず鼻が膨らんだ。

「俺はこのスポットで大きくなる。大きくなって、いつかホランドみたいにLFOでカットバックドロップターンを決めるんだ」

 だけど、オッサンは僕の大いなる決意なんかにはまるで耳を貸さず、

「はいよ、お代はサービスだ」

 調整が終わったリフを僕に投げてよこした。って、タダ!? ラッキー。内心でにやけつつも、僕は一応、社交辞令として尋ねてみた。

「いいのかよ、オッサン?」

「ああ、餞別だ」

「餞別?」

「ああ、俺は引っ越すからさ」

 そう言って、オッサンは店じまいを始めた。レイアウトやホランドのポスター、リフのカスタムパーツがあっという間にワゴンに積まれていく。

 み、店じまいってそんな! 僕はオッサンに駆け寄った。

「ど、どこに?」

「もっと波のくる塔の街にさ、何せここじゃ商売上がったり。客はお前だけだし、そのお前も見るだけで買わないしな」

 オッサンはあばよ、とワゴンをバックさせた。あっという間にオッサンのワゴンがスポットから遠ざかり、僕と僕のスクーターだけが残された。

 さ、最悪だ。これからどこでリフを調整すればいいっていうんだ!


 そう、この街は最悪だ。最悪を絵に描いたようなどうしようもない街なのだ。

 リフをしたくてもロクな波は来ないし、まともに生きるには軍人になるしかないんだ。かといって、僕はこの町を出る術を知らない。知るには若すぎる。

 だって僕は十四年しか生きていない。だから僕はここにいるしかないんだ。

 この最悪な街に。


「その際に引き起こされた空に満ちたトランサパランスライトパーティクル。すなわちトラパーの大量発生によるコンパクドライブの暴走。及びその物理的破壊力による世界の混乱。それが世に言うサマー・オブ・ラブであります」

 眼鏡のひょろっとしたオッサン、もとい先生がどうでもいい話をしている。耳タコの、このサマーオブラブの話。小学生のガキだって、この話を知っている。何度も何度も、この街の連中は同じことを話したがる。

 僕は完全に授業を無視してレイアウトを読みふけっていた。カモフラージュの教科書にはもちろん、落書き済み。何がアドロック・サーストンだ。ホランドの方が断然格好いい。ああ、見事なカットバックドロップターン。尾を引くトラパーに思わず惚れ惚れしてしまう。

「そうした大災害を命に買えて阻止したのがわが国が生み出した伝説の人物アドロック・サーストンであり、え~そして、その英雄である息子が我がクラスの一員のレントン君なのであります」

 うがが。こっちに話を振るなよ、先生。うんざりなんだよ、英雄の息子だって言われるのも、クラスメイトからこいつが英雄の息子かよ!? って目で見られるのもサァ。

 ああ、最悪だ。

 いつものように僕がうな垂れた時、衝撃が体を揺らした。びりびりと震える窓、ひっくり返る机。あ、レイアウトが落ちた。

 外には校庭に突き刺さった七色の隕石。トラパーの塊か何からしいけど、詳しくは知らない。でも、問題はない。だって、こんなのはしょっちゅうだから。原理なんか知ったって、隕石は突然落ちてくるし、当たれば死んでしまう。知っていたって知らなくたって、意味はないし問題ないんだ。

「じ、自習です。先生達は処理に向かいます。皆さんは外に出ないように!」

 机を直した後、僕はみんなのように窓によりかかり校庭を眺めた。おおお、見事に突き刺さってる。運良く誰も死ななかったらしく、土が飛び散っているだけで赤いものは混じっていない。でもまぁ、考えてみれば僕も運がよかったのかもしれない。カットバックドロップターンを決めるまでは死ねないから。

「本当のところさ、見た奴いるのかよ。お前の親父が世界を救うところさ」

 突然、長髪のクラスメイトが話しかけてきた。ああこいつ、何て名前だっけ?

「お前の姉ちゃん、それを証明するって行って家出したんだろ」

 今度は逆側から眼鏡をかけた奴が話しかけてきた。そいつは姉さんの話を持ち出して、にひひとムカつく笑みを作った。

「コンパクドライブにお告げが来たってサァ」

 むかついた。姉さんを馬鹿にされたのも、父さんの話をほじくられたのも。

 僕は思わず鉄拳を長髪にお見舞いしていた。


 頬が痛い、というか顔中が痛い。殴りかかったはいいけど、二人がかりで殴られてしまったのだ。でも、あいつらのパンチなんか僕には効かない。僕はあいつらを見事殴り倒し……今は、屋上にいる。ケンカした後って、何だか胸が熱くて落ち着かないからだ。

「ねえねえ見た? 今月のレイアウト」

 僕と同じく自習を抜け出したクラスメイトがぺちゃくちゃと近くで話している。

「見た見た、17号でしょ。タルホさん、超綺麗だよねぇ」

 タルホ、ホランドのパートナーでゲッコーステーツのメンバーだ。さらりと肩にかかる黒髪に、見事なスタイル。確かに綺麗な人だけど、ちょっと年上過ぎる。だって、彼女は26歳だ。僕としてはもう少し年下の方が――

「でもさ、ゲッコーステーツって犯罪組織なんでしょ。あいつらは本当は人殺しで、ロクでもない人間だから信用しちゃいけないってママが言ってたもん」

「ええホントに?」

「信じられないよ」

 ホランドが犯罪者か。あまり認めたくはないけど、ホランドはゲッコーステーツという組織を結成して、色々な場所で暴れまわっている。でも、それでも僕はホランドを。やめておこう。ケンカしたばかりで、彼女達に言い返す気力が沸いてこない。

 代わりに僕は手の中のエメラルドグリーンの水晶体――コンパクドライブを見つめた。僕の姉さんがくれた、コンパクドライブ。


「覚えておいて、レントン」

 あの日、姉さんがこの街を出て行った日。まだ小さかった僕は姉さんに手を引かれて歩いていた。柔らかくて優しい声と、毛先がくるくると丸まった髪、それが姉さんの魅力だ。あの日も僕は姉さんの声を聞きながら、くるくると丸まった毛先を見ていた。

「信じていれば、きっとまた会える」

「ホントに?」

「ホントに」

 姉さんは力強く言い切った。

「ホントに信じることが出来たら、信じる力は現実になるから。そしたらレントンはきっと空も飛べるし、大事な人も救えるし、私にもいつでも会える」

 僕がもう一つ好きなものがあった。姉さんに抱き締められた時の柔らかさ、温かさ。まるで太陽のようだった。母というものを知らない僕にとって、姉さんは母さんだったんだ。

「だから私を信じて。信じていい子でいるのよ」

「うん、お姉ちゃん」

 あの日以来、姉さんは僕の前から消えてしまった。でも姉さんがくれたコンパクドライブが、僕と姉さんを結び付けてくれるし、何よりも姉さんに抱き締められた時の感触を今でもよく覚えている。


 あの柔らかさと温かさを思い出すと、思わず顔がにやけてしまうくらいだ。口には出さないけど、僕は姉さんが大好きなんだ。もっとも、リフとホランドの次にだけどね。

「ねえ、何かレントンってキモクない?」

 うが。金髪の女の子が嫌悪感丸出しで言ってきた。しかも僕がちょっと可愛いなと思っていた子だ。

「コンパクドライブ見ながらにやにやしちゃってさ」

 うがが。き、気持ち悪いってそんな。でも僕は姉さんを思いだしてただけだ! なんて言えずにこう呟くしかなかった。

 最悪だ。

 校庭にある掘削機が、がつんと耳障りな音をたてた。


 結局、授業はあのまま終わった。校庭に突き刺さった隕石の処理が想像以上に捗っていないらしく、僕たちは帰るように指示されたのだった。その際、先生が何か言っていたような気がするけど、朝から最悪の気分の僕は見事に聞き流してやった。

 スクーターを転がして、学校から帰ろうとすると、坂道の下に白髪の爺さんが立っていた。

「ん?」


「何帰ろうとしとる」

「じっちゃん」

 黒ぶち眼鏡の奥が不機嫌そうに細まる。彼は、僕のじっちゃんだ。あれ? 僕、何かやらかしたっけ。ケンカならいつものことだし、じっちゃんが五月蝿いと言うのにも関わらず朝からスクーターをかっ飛ばすのもいつものことだ。じっちゃんは何で不機嫌になっているんだろう。


 じっちゃんが不機嫌な理由はすぐに分かった。

 僕の素晴らしい成績のことで、先生に呼び出されたのだ。そういえば、帰り際に僕だけは残っているようにと言われたような気がする。

「非常に申し上げづらいのですが、今のレントン訓の成績では軍学校はおろか高校への進学も――」

 じっと化石のように固まっている僕の側で、じっちゃんが先生の言葉を遮った。

「構いません」

 え? マジ?

 先生も僕と同じ感想を持ったらしい。

「ですが軍の英雄であられるアドロック・サーストンのご子息であるなら――」

 じっちゃんはぎろりと先生を睨んだ。

「構わんのです。私はこの子に私の後を継がせます」

 うっそ? マジですか、じっちゃん。僕がじっちゃんに顔を向けると同時に、じっちゃんが机を叩いた。びくりと体を震わせ、また化石になる僕と先生。

「これ以上、私の家から軍人を出すつもりはない!」


 じっちゃんの迫力ある啖呵から一時間、僕とじっちゃんは近所のファミレスに来ていた。オレンジ色の夕日が窓から差し込んできて美しいとか、そんなことはどうでもよくて。僕は目の前に運ばれてきたハンバーグに釘付けになっていた。じゅうじゅうと音をたてて美味そうだ。

「スッゲー! いいのかよ、じっちゃん。いっただきまーす」

 いざ、ハンバーグへ! フォークとナイフをハンバーグへ突き刺そうとした僕の耳に、じっちゃんのため息が流れ込んでくる。

「はぁ、何でこうなったのかのぉ」

 僕は何となくハンバーグを食べることが出来ずに、手を止めた。こうなったって、僕の成績のことに違いない。あれからずっと黙っているなと思ったら、僕の成績に頭悩ませていたらしい。じっちゃんは疲れきった様子で目をほぐした。

「ワシは死んだお前の母親に何と説明していいのか」

 出た、じっちゃんの殺し文句。何かにつけて、じっちゃんは死んだ母さんのことを持ち出す。持ち出されたって、僕は母さんの顔すら知らないのに。

 ……最悪だ
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エウレカセブン 始まり 

ブルー・マンデー「ベルフォレスト西、南の風風力3。トランサパランスライトパーティクル、36のち56」 ラジオから流れてくるリフ情報を聞くレントン。「ノース・ショア」のオープニングみたいだ。レン

第01話ブルーマンデー

祖父と二人暮しをしているレントン。彼は、決められた将来や、何も起こる気配のない単調な毎日にうんざりしていた。そんなある日のこと。レントンに転機が訪れる。彼の家に、幻のLFO、ニルヴァーシュが落ちてきたのだ。

第1話 ブルーマンデー

あらすじ【単調な毎日にうんざりしていたレントン。そんなある日、レントンの家に幻のLFOニルヴァーシュが落ちてきた。コクピットから現れたのは、美少女エウレカ。メカニック業を営む彼の家に、ニルヴァーシュの整備を頼みに来たというのだが。彼女の後に、ゲッコーステイ

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非公開コメント

凄いよね。!!!


コメントありがとうございま~す。

>凄いよね!!

えと、これは小説のことですか? それともエウレカセブンのアニメ自体が凄いってことですか?

もし小説なら、ありがとうございます! こういう反応があると嬉しいです。

またいらしてくださいね~ノシ

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コメントありがとうございます~

そう言っていただけるとありがたいですよ。励みになります。
トランスパランス、修正しておきましたー。
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