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交響詩篇 エウレカセブン ブルー・スカイフィッシュ3

数分前までは、鮮やかな緑色に満ちていた大地。その景色を見ることは、当分ないだろう。大地は旧世紀の核兵器でも打ち込まれたかのように荒廃し、軍のLFOの残骸が転がっている。軍のLFOは一部分が塩に変化しており、マシューが塩の部分を蹴りつけた。
 俺はLFOをニルヴァーシュの近くに寄せた。飛び降り、ニルヴァーシュのコックピットを開かせる。水色の髪の少女、エウレカがうっすらと目を開けた。

「ホランド?」

「無事か?」

「うん、大丈夫」

 額に手を当てながらも、エウレカは頷いた。

「皆は?」

「ん? まあ、俺らは無事だが……それにしても凄まじい力だな。まさか、アミタドライブに内蔵されていた悟りプログラムがお前の、ニルヴァーシュの力をここまで解放させるとは」

 俺は先ほどのセブンスウェル現象を思い出していた。その身に秘めた力を解放させたニルヴァーシュを。凄まじい力と俺は言ったが、あれは〝凄まじい〟の一言で片付けられるようなものではない。あれは、まるで――

「違うわ」

「え?」

 エウレカは、彼女の膝の上で馬鹿面をしているガキを見つめた。レントン・サーストン。戦場でカットバックドロップターンを決めたキレたガキだ。

「この力を解放させたのはそのアミタドライブでも、悟りプログラムでもないってニルヴァーシュは言ってる。本当に力を解放させたのは、この子の力なんだって。」
 

エウレカセブン ブルー・スカイフィッシュ


私とニルヴァーシュ、そして軍艦によって破壊されたサーストン家。かろうじて燃え残ったソファを引っ張り出し、お爺さんは孫をソファに寝かせた。今、彼は、発掘屋と会話している。

「これで時間を稼げるとは思うが、軍の奴らにバレるのは時間の問題だ。じっちゃんとレン坊がかくまえるよう、何とかすっから、早いトコずらがる用意しといてくれよな」

「すまねえな」

「じゃあ、先に行ってるぜ」

 荷台にサーストン家の荷物を乗せたトラックが発進する。

「ふ、まったく。のほほんとした顔で眠りやがって」

 のほほんという顔がどういうものか知らないけれど、レントンは嬉しそうに寝ている。お爺さんも、とても嬉しそう。私にアミタドライブを持っていけと言った時の顔とは、正反対。

「何で嬉しそうな顔してるの」

「ん?」

「この子、すごい無茶なことやったのに」

 戦場を翔け抜けて、私とニルヴァーシュにアミタドライブを届けてくれた。何故、この子はあんなことをしたのだろう。好きとこの子は言っていたけれど、私には理解できない感情。だから、この子が動いた理由も理解できない。でも、一つだけ分かったことがある。

 ニルヴァーシュには、この子が必要。

「かもしれんな」

 お爺さんはレントンの額にかかった髪を払った。

「だが、こいつがやりおったことをわし以外に誰が誉めてやれる。世間的には無茶かもしれんが、わしゃこいつを誉めてやるよ。何せ、こいつはわしの家族だからな」

「家族……」

 家族。ホランド・タルホ・マシュー・ヒルダ・ストナー、ゲッコーステイトの皆。彼らは私の家族なのだろうか。仲間だとは思う。でも。

「お嬢ちゃんも子供を持つようになれば分かるさ」

 お爺さんは、私にも優しい顔を向けてくれた。

「私は……」

 よく分からない。子供とか言われても。それに私は、あなたから家族を奪おうとしている。ニルヴァーシュにレントンが必要だから。

 私がそう言おうとした時、リフボードが私達の上を滑空していった。ホランドのリフボード。

「ご無沙汰してます。まさか、再びお目にかかる日が来るとは思いませんでした」

 お爺さんの目の前に降り立ったホランドは、膝をついて深々と頭を下げた。

「どの面下げてきやがったんだ」

 さっきまで優しげだったお爺さんの顔に、一瞬で皺が寄る。

「ええ? ホランド」




 遥か上空を一隻の船が飛んでいく。あの形は高速艇。

「いつからここいらを、うろつい取った? 昨日辺りだろう。それに、お前のターミナスはどうした?」

 お爺さんはホランドに背を向けたまま喋った。怒りを押し殺した声。煙草を吸っているのは脳を鈍らせて、激昂しないようにするためかもしれない。

「909では目立ちます。ボードでよらせてもらいました」

 ホランドが敬語を使っている。何だか、おかしい。

「まったく。毎回お前はそうやってわしの生活を無茶苦茶にしていく。とんだ疫病神だ」

「一言だけ、一言だけ言わせてください」

「んん?」

「ありがとう」

 ホランドが私とニルヴァーシュに顔を向ける。お爺さんも同じように、こちらへ顔を向けたけれど、無表情だった。

「まあ。何故お前がtype ZEROと共に現れたのか、おおよその察しはつく。二度と顔を出さないと約束したお前が来たんだ。決心したのか? だからここに来たんだな。こうなっちまった以上、わしらがどうなろうとそれなりの責任を取るしかあるまい」

 お爺さんとホランドの会話を聞きながら、ニルヴァーシュと話していた私は、彼に向かって頷きかけた。彼は、ニルヴァーシュはやはり言った。レントン・サーストンが必要なのだと。彼の意思は、私の意思。

 私は、コックピットを降りた。

「だが、わしはレントンだけにはここで普通の幸せを与えてやりたいと思っとる」

「普通の幸せね。あの子がその普通とやらを望んでるとでも?」

 レントンはまだぐっすりと眠っている。本当に気持ちよさそうに。モーリスにリンク、それからメーテルを私は思い出してしまう。あの子達とこの子の寝顔はとてもよく似ている。レントンのほうが年上だけれど。

 それでも、頬をつついた時の反応まるで同じ。おかしな子。こんな子が、ニルヴァーシュの力を解放させたなんて。

「いつか、どちらが正しいのか分かる日が来る」

「だったら何故アミタドライブを届けさせた? あんな無茶をさせてまで、あの子に届けさせた?」

 ホランドとお爺さんの口調は、徐々に激しさを増していく。

「あなたはそんなこと信じちゃいない。いや。本当に信じていることを誤魔化しているだけだ」

「違う! わしは本気でそう思っとる。お、お前みたいな宿無しに何が分かるというのだ」

 お爺さんは左手でホランドの襟首を掴んだ。右手は、ニルヴァーシュに振り落とされた際に折れてしまったらしい。けれど今のお爺さんは、折れた右手を使ってでも、ホランドを殴り倒しそうだった。

「ならどうして。後生大事に隠し持っていた!」

「あれを生み出したのがわしの倅だからだ。本当はアレをお前が持つ資格はない。わし以外に持てるのは、レントンだけだ!」

 お爺さんの声が聞こえたのか、レントンの目がぱちりと開いた。

「わしゃ、お前を許すつもりはない。だがな、今はお前以外にアレを託せる人間はおらんのだ」

 さっきまでの寝顔がレントンから消えうせ、引き締まった表情になる。

「もういい。もう、帰ってくれ」

 お爺さんの包帯にいくつもの染みが出来る。お爺さんが、泣いていた。今まで語気を強める一方だったホランドも、この時ばかりは顔を曇らせる。

「すいません……」

 もういいと言っておる。お爺さんはそう言い、どこかへ歩いていった。

「分かんない、分かんないよ」

「え?」

 黙ってホランドとお爺さんの話を聞いていたレントンが、おもむろに口を開いた。

「俺、分かんない。父さんがあんなものを作り出した理由も。じっちゃんがそれを隠していた理由も。何でこんなことになっちゃったのか。俺、俺、俺……どうしたら」

「それはお前が決めることだ」

 レントンの目が大きく開かれる。彼の目に映っているのはホランド。リフのトッププロにして、ゲッコーステイトのリーダー。そして、私を救ってくれた人。

「お前が何を信じ、何を決意するかはすべておまえ自身の責任だ。波を生かすも殺すも自分次第。それがリフをする奴の心構えだろ」

「ほ、本物だ」

 レントンは大きく鼻を膨らませて、ベッドから飛び降りた。



僕は瓦礫の影から一人の男を見ていた。ホランド。リフのトッププロ、そしてゲッコーステイトのリーダー。僕の、ヒーローだ。そのヒーローが僕の家に――廃墟だけど――に来てくれるなんて、これは夢じゃないだろうか。でも、ホランドはリアルだ、現実だ。

スッゲー。姉さんに話したら何て言うだろう。

「答えなら、もう出てるんだろ?」

「うっ」

 ホランドが振り返る。答え、この一言で僕は現実に引き戻される。そう、今は浮かれている場合じゃない。

 僕は瓦礫の影から出た。

「お前は波を信じた。でなけりゃ、カットバックドロップターンなんて出来やしない。結果的に、お前は世界を信じたんだ」

 ホランドが、真正面から僕を見据える。その目は、写真で見るよりもずっと鋭かった。

「そして、それに世界は応えてくれた」

 確かに世界は僕に応えてくれた。僕が求めたから、応えてくれた。カットバックドロップターン、そして……

「ここで止めるのも手かもしれん。その決断もいいだろう。だが昔、俺の師匠は言っていた。ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん」

「そ、それって」

 父さんの言葉。それじゃあ、それじゃあ、ホランドの師匠が僕の父さん?

「お前が本当に信じてるものは何だ? お前はニルヴァーシュの中で、何を信じたんだ?」

「俺は……」

 あの時、僕が信じたものは。



「俺の人生、ここで終わりなの? 14年で終わっちゃうの? ちょ、ちょっと待って! うわああああっ!」

 ミサイルと目が合う。直撃する。死ぬ、死んでしまう。それなのに僕は、絶叫することしか出来なかった。

 その時だった、

「大丈夫」

 僕は彼女に抱き締められた。同時に、ニルヴァーシュのコックピットに光が戻ってくる。

「私を信じて」

 ――そうだ、これは初めてじゃない。俺はあの時、確かに見ていたんだ。姉さんの肩越しのコンパクドライブに、エウレカって文字が出ていたことを。

 コンパクドライブの輝きが増していく。あふれ出した光は、僕と彼女をエメラルドに染めた。光の粒子が、コックピットを舞っている。

 ――分かんない。分かんないけど。でも、俺は今何となく分かった気がした。あの時、姉さんが何を言おうとしていたのかを。そして今、俺が何を信じるべきなのかを。

 僕は静かに目を閉じた。温かい。彼女とニルヴァーシュの温もり、そして姉さんの温もりだ。

 これは、人間の温もりだ。

 僕の目の前に、虹がかかった。



 ミサイルが命中する瞬間、ニルヴァーシュは七色の光に包まれた。ニルヴァーシュの、いやアミタドライブの悟りプログラムが発動したのだ。

 軍の連中は今頃、トラパー領域の異常な変化に慌てふためいていることだろう。だが俺は、計器など使わなくても理解できる。アレが、来る。俺の左腕の古傷が告げているのだ。

「マシュー退け!」

「どうして!?」

「いいから逃げるんだ!」

 左腕のうずきが強くなる。

「さっきのちびだ。あのちびっ子が、ニルヴァーシュにアミタドライブを届けたんだ。来るぞ、セブンスウェルが」

 ミサイルの爆炎を飲み込むようにして、ニルヴァーシュから閃光が立ち昇った。天高く昇った閃光は頂点まで達すると、今度は地表を覆いつくした。閃光に秘められた凄まじいエネルギーが大地を蹂躙していく。

 その衝撃波は上空にも及び、俺の体はシートに叩きつけられた。

 この時、俺は確かに見た。空にかかる、トラパーの虹を。いよいよ始まったのだ。セブンスウェル現象が。そして、師匠の夢の続きが。



 天に昇る光の柱。それを中心として天にかかる虹。

「まったく、こんなことを引き起こすものを残していくお前は親不孝ものだ。あまつさえお前の息子までも巻き込んでいく。これはわしらを破滅させ、死を導く光だ」

 夢など追わん方がいい。夢を追って、お前が何を得たというのだアドロック。お前は死んだ、夢を追ってお前は死んだ。そしてダイアンも、お前の馬鹿げた夢を引き継ぎ、家を飛び出していった。生きているかどうかも、今は分からん。

 だからこそわしはレントンに言ったのだ。夢など追わん方がいいと。夢を追ったお前たちは、いつもわしの側からいなくなる。

 しかし、しかし。なあ、アドロックや。

「しかし、何と美しい」

 瞳に、虹が広がっていく。



 ニルヴァーシュから発せられていた光が収縮する。続いてニルヴァーシュを包むのは赤いエネルギーだ。トラパーではない。

 エネルギーを撒き散らしながら上空へ飛んだニルヴァーシュは、軍のLFOに取り付いた。だが、LFOのメインカメラがニルヴァーシュを認識するよりも早く、LFOの体が引き裂かれた。まるで紙細工だ。機体ごと引き裂かれたパイロットの肉片がニルヴァーシュにこびりつく。

 LFO爆発。その勢いを利用して再び飛んだニルヴァーシュを、ショルダーミサイルの群れが追う。しかしニルヴァーシュはあろうことか、ミサイルを踏み台にして空中で姿勢を制御した。踏みつけたミサイルが爆発する前に飛び去り、再びミサイルを踏みつける。軽業師のようにミサイルをかわしきったニルヴァーシュは、右足を突き出した。急下降。赤いエネルギーと共に軍のLFOを貫く。

「スッゲー!」

「まさしく鬼神だな」

「なあ、ダイアン。これでいんだよな。本当に、これで……」

 蹴りの勢いのまま地上に降りたニルヴァーシュ。ニルヴァーシュは、ミサイルに撃墜された際に、地面に残したままのリフボードを掴んだ。足をかけ、波に乗る。こうなれば最早、敵はない。あっさりと軍のLFOをボードで両断し、戦いは終わった。



「分かんない、俺分かんない。けど、あの時、俺はあの子を助けたいって思った。そして。そのことを、その思いを信じろって、ニルヴァーシュに言われた気がしたんだ。だから俺は信じてみたんだ。信じることで、彼女を助けられるって思ったんだ。それが、その証明になるって思ったから。でも……」

 やっぱりまだ、分からない。何が証明になるかなんて、きっと簡単には分からないんだ。
「証明か。ホントに証明したければ、一緒に来い。それを彼女も望んでいる」

 彼女――あの髪の青い女の子。名前さえ知らない、けれど僕にスポットを与えてくれた少女。彼女が、僕を望んでいる?

 僕は彼女を見つめた。彼女も紫色の瞳で僕を見つめ返してくる。

 彼女が口を開きかけた時、けたたましい警報が鼓膜を刺激した。

「外出禁止令!?」

「イスモ隊!」

 空港へ入港する軍艦を見たホランドが鋭く叫ぶ。

「思ってたより早かったな」

「ホランド」

 駆け寄ってくる少女に、

「わりぃ、ニルヴァーシュの無線借りる」

「うん」

 そういい残し、ホランドは走り出した。

「ねえ。一緒に行こう」

 ホランドを見送っていた少女が、くるりと僕の方へ顔を向ける。相変わらず、可愛い。彼女は僕の手を取った。

「だって、君じゃないと駄目みたいなの」

 ――確かに、女の子にこんなことを言われたのは初めてだった。でも、本当の理由は違ってたんだ、姉さん。俺は、じっちゃんの代わりに、アミタドライブを守らなきゃいけないって思った。そして、もう一度、この子を信じようと思ったんだ。

 ――だから、俺は、その手を握り返したんだ。


つづく!


七色に輝く現実。

困惑するしかない大人たち

そんな中少年は、旅立つために、再びニルヴァーシュに乗り込む。

次回、モーションブルー。
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