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交響詩篇 エウレカセブン ブルー・マンデーAパート2

 そんな最悪な街の最悪な人生だけど、波さえ来れば全部オッケー!

 リフさえ出来れば問題なし!

 だから姉さん、俺は大丈夫!

 翌日。僕はいつものようにスクーターを走らせ、トンネルに入った。このトンネルを抜けると、僕のスポットだ。オッサンはいなくなっちゃったけど、スポットがなくなったわけじゃない。リフに乗れなくなったわけじゃない。

 俺にはリフがある。リフさえあれば、どこであろうとサイコーなんだ!!
 トンネルの出口が近づき、光が見えてきた。あの光の向こう側で、僕は今日もリフに乗る。サイコーの気分を味わうため――

「んがあっ!?」

 立入禁止。僕の目に理解不能の四文字が飛び込んでくる。その奥からは地響きと共に立ち上る灰色の煙。

 なな、何だこれ!? 僕はスクーターを乗り捨て、立ち入り禁止の文字と共に張り巡らされたフェンスに張り付いた。

 塔州連邦空軍。国有地につき関係者以外の無断立ち入りを禁止する。無慈悲な看板がフェンスに取り付けられていた。

「そんな、俺のスポットが……」

 呆然とする僕の目の前で、煙が晴れる。その中で、黒い巨大なシルエットが動いた。人型をしたそれは――

「軍のLFO!」

 僕はフェンスを掴んだ。つまり、僕のスポットは軍のLFOの演習地に選ばれてしまったのだ(確かにここは広かった)。つまり、僕のスポットは二度と戻ってこないということだ。

 そう、二度と。

「うぉっ、こんな、こんな街は最悪だぁぁぁ!」

 天に向かって叫んだ僕の目の前で煙が巻き起こり、僕の口の中は真っ黒になった。

 最悪だ。


 その夜、僕はベッドの上でため息をついていた。

 ――確かに、ホランドは犯罪者なのかもしれない。でも俺はそんなホランドが羨ましい。仲間と共に、自由に世界を駆け回り、波だけを追い求めている、ホランドが。

 俺も自由に生きたい。自由に生きて、ホランドみたいにリフのプロになりたい。

 そうなれば、スポットが潰されたって問題ない。世界中が僕のスポットになるんだから。僕はノートにLFOの絵を描きながら、にやにやと笑った。見事にリフを乗りこなし、カットバックドロップターンをびしりと決める僕。皆が僕に羨望の眼差しを送り、その中には姉さんやあのタルホだっている。僕を変態呼ばわりした子達もね。

 そして、そして、そして!

 いつか俺はゲッコーステートのメンバーになるんだ!

 夢に胸を膨らませ、ベッドに体をうずめると、コンパクドライブが光った。表示された文字は、EUREKA。

「何だよ、またエウレカか」

 何故かは分からないけど、僕のコンパクドライブは時々こうやって謎の文字が浮かび上がることがある。

「今月はもう三回目――」

 そういえば今月だけやけに回数が多いことに、僕は今更ながらに気付いた。これはもしや、何か特別な意味があるんじゃないだろうか。

「えっへへ、これ何なんだろう」

 僕の中で妄想が膨らんでいく。

「俺のトコだけにくるんだよなぁ。軍の暗証番号だったりするのかなぁ。あ、もしかして、ゲッコーステートの暗号だったりして。だったらいいな。この暗号を受け取ったものはゲッコーのメンバーになれる、なーんて」

 うわ、これはたまらない。僕はコンパクドライブを抱え、ベッドで転げまわった。

 スポットを奪われたんだから、これくらいの妄想は許されるはずだ。なのに。

「ん?」

「何やっとる」

 にわとりみたいなじっちゃんの頭がにゅうっと梯子の下から出てきた。妄想していたところを、もろに見られてしまった。

「な、何だよ、勝手に入ってくるなっていつも言ってるだろ」

「まったくガラクタばかり増やしおって」

 じっちゃんはじろじろと僕の部屋を見回した。ホランドのポスターや、床に転がるレイアウト、それからリフ。部屋を見られると、全身を嘗め回されているようで落ち着かない。僕は口を尖らせた。

「見んなよ、関係ないだろ」

「関係ある。生理整頓もロクに出来ん奴は、立派なメカニックになれん」

 えっ? 確かにじっちゃんは、先生にワシの後を継がせるなんて言っていたけど、あれはその場しのぎじゃなかったのかよ!? 大体、あれ以降、その話題に触れもしなかったくせに。

「ちょっと待て、俺がいつメカニックになるって言った!」

「前から決まっとる」

「勝手に決めんな!」

「じゃあ、他に何がある?」

「あ……」

 僕は言い返せなかった。僕はプロのリフ乗りになりたい。だけど、スポットは奪われてしまったし、僕は未だに波に乗れない。毎日毎日、リフを抱えてスポットに通っていたのに。分かっているんだ、僕には何もないって。それでも、それでも。

 じっちゃんの目は自然とベッドの脇に飾られた写真に向かった。じっちゃんと姉さんと、僕が映った写真。その隣には父さんの写真もある。

「いいか、レントン。お前が何に憧れても構わん、板切れに載るのもいいだろう。だがな、現実を見ろ。お前の親父が死んで英雄になったところで、ダイアンが夢をおっかけて家を出たところで、この世界はなにも変わっちゃおらん」

 じっちゃんは吐き捨てるように言葉を続けた。

「夢や理想なんつーものを信じるものが馬鹿だ」

「……分かってんよ」

 現実を見ろって言うんだろ、じっちゃん。分かってんだよ、そんなこと。分かってんだ。それでも諦められないから、夢ってゆーんじゃねえのかよ。

 僕はじっちゃんにせめてもの抵抗をしようと、考えられるだけの嫌味を吐いてやった。

「どうせじっちゃんは俺がやりたいことなんかよりも、自分の老後のほうが心配なんだろ。安心しろよ、俺がたんまり稼いで老人ホームにいれてやっからよ!」

 クリーンヒット。じっちゃんはふがふがと怒りのあまり、豚のように鼻を鳴らした。

「な、なんじゃと!」

 ふがふがふがふが。じっちゃんの怒りは最高潮に達し、でえええいと叫んだ。こめかみに浮かび上がる血管。これは久々に拳骨が落ちそうだ。少し身構えた僕だったけど、じっちゃんの怒りの矛先はリフボードに向かった。

「こいつか、こいつがお前をたぶらかしたのか!」

 じっちゃんはリフボードを鷲づかみにし、梯子を飛び降りた。

「爺、てめえ何しやがる。そいつはホランドレプリカでレアもんなんだぞ!」

 慌ててじっちゃんを追いかけた僕は、しかしすぐに足を止める羽目になった。突風が僕を襲ったのだ。じっちゃんも足を止めて空を見上げている。

「え?」

 突風を巻き起こしたのはLFO。白いボディのLFOだった。何故かこんな民家の近くで波に乗るLFOは急上昇した後、上昇の頂点で速度を見事に殺し、リフを切り返した――カットバックドロップターン。

 凄い技のキレだ!

「まさか、ホランド?」

 と思ったのも束の間、白いLFOは波に乗りそこなったのか、急にコントロールを失った。

「ん? 何だ?」

 ふらふらと空を飛び、徐々に徐々に僕の部屋へ――

「うあああっ!」

 目の前に墜落するLFO。僕の部屋は粉々に吹っ飛び、衝撃波が僕とじっちゃんを吹き飛ばした。背中から地面に叩きつけられ、鈍い痛みがじわじわと広がる。

「つう……」

 じっちゃんは、生きている。隣で僕と同じようにうめている。さすがじっちゃん、このくらいじゃ死なない。となると、僕の関心は吹っ飛ばされた僕の部屋に向くわけで。部屋はもう吹っ飛んでいるわけで。

「俺の部屋!」

 僕は真っ青になりながら絶叫した。あ、あ、あ……あの中には僕の宝物が詰まっていたのに!

 だけど白いLFOの姿を見た途端、部屋のことなど僕の頭から吹き飛んでしまった。

 LFO特有の流線型は他のLFOと同じだとしても、フォルムがあっさりしすぎている。
武装も何もない、人間で言えば生身のような印象を、そのLFOから受けた。それに何より、美しすぎる。これが、本当にLFOなのか?

「ちょっと待って。何だこれ、何なんだこのLFO。俺、こんなの見たことない」

「ニルヴァーシュtypeZEROだ」

「知ってんの?」

 じっちゃんは背中をさすりながら立ち上がった。

「ああ、これが史上最古のLFOだ。まさか、本物を見る羽目になるとはな……」

「これがニルヴァーシュ」

 僕がその名を呼ぶのを待っていたかのように、ニルヴァーシュtypeZEROのコックピットが開いた。中から出てきたのは、水色の髪をした女の子。前髪を髪留めで留めていて、おでこの下で丸い目が二つ動いている。顔は人形のように整っていて、僕が今までに回り逢ったことのないタイプだった。ファッションもいかしてる。首にはチョーカー、服はワンピース、白い足が暗闇の中でも映えている。

 僕は息を呑んだ。息を呑んで、彼女の唇を見つめた。

「ねえ。この子、調子悪いみたいなの。だから、ちょっと見てくれない」

 透明な声、ちょっと気が強そうだけど――

「可愛い……!」

 最悪な僕の人生に、こんな可愛い女の子が現れてくれるなんて。何かが、何かが変わりそうな予感を、僕は全身で感じ取っていた。

 ついでに、鼻の下も伸ばしたけれど。
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