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交響詩篇 エウレカセブン ブルー・マンデーBパート

 あれから、僕の部屋がぶっ壊れてから、あの子と会ってから、僕はニルヴァーシュに付きっきりだった。本当はあの子と色々話したかったんだけど、じっちゃんと僕にニルヴァーシュを託したきり、どこかへ行ってしまったのだ。多分、この無駄に広い僕の自宅兼、じっちゃんの仕事場のどこかにいるのだろうけど。そういえば朝からじっちゃんの姿を見ていない。
 昨夜の出来事を知らせに役所でも行ったらしい。

「これが、これがニルヴァーシュかぁ」

 ともかく、今はじっちゃんなんかのことよりもあの女の子、そしてニルヴァーシュに僕は夢中だった。くぅ~、昨日から何度も見てるけど、ニルヴァーシュは本当に美しいLFOだ。朝日が装甲に反射して美しいの何のって!

そして、ニルヴァーシュにまつわるエピソードが、僕の心をくすぐりまくるのだ。

「世界で始めて発見された、幻の機体。すべてのLFOの基本となった伝説のマシン!」

 そう、僕は今、伝説を目の前にしているのだ!

「故にタイプゼロ。オリジナルの中のオリジナル!」

 ん? オリジナルの中のオリジナル……? 僕はぱちんと指を鳴らした。

「ということは、俺あったまいい!」

 僕は床から飛び起き、ニルヴァーシュが固定されているブースの梯子に手をかけた。

「オリジナルのLFOなら、きっとオリジナルのコンパクドライブがついてるはずだよな。そしたら、LFO用のオリジナルデータが書き込まれてて……」

 お待たせ、ニルヴァーシュ。お待たせ、僕のコンパクドライブ。今、ニルヴァーシュのコンパクドライブからスッゲーデータを引き出してみせるよ。
 僕は開かれたままのコックピットに乗り込んだ。硬いシート、油の匂いと、花の匂い。伝説のLFOのコックピットは無機的でありながら、どこまでも有機的だった。彼女の、あの子の存在がこのコックピットに染み付いているような、そんな気がして。

 おっとっと、今はコンパクドライブだ。僕はコックピットを見回した。操縦桿、計器類……ああ、あった。コンパクドライブを挿入するユニットだ。ここにコンパクドライブを挿すことによって、LFOは動き出すのだ。さぁ、ニルヴァーシュ。君のコンパクドライブにはどんなデーターが詰まって――僕の手はあるべきはずのコンパクドライブを掴めずに、代わりに宙を掴んだ。

「あれ、あれあれ? コンパクドライブがない。おっかしいな」

 僕は首を捻った。コンパクドライブがなければLFOは動かないし、あの子がニルヴァーシュからコンパクドライブを抜き取った気配はない。最古のLFOだからコンパクドライブがついていないのかと、僕は一瞬思ったが、ニルヴァーシュのコックピットは見事にリファインされている。古臭さなんて、ちっとも感じないのだ。

「ツーリングユニット式のアタッチメントソケット。しかも最新型がついてるのに、コンパクドライブがついてないなんて信じられない」

 その時、誰かの足音が背後からした。きっとじっちゃんが役所から帰ってきたんだろう。

「ねえ、じっちゃんこのLFO何か――」

 振り返った僕を出迎えてくれたのは、じっちゃんのダッサイ茶色いワーカーパンツではなく、真っ白な足だった。真っ白くて細くて、触るとちょっと柔らかそうな、あの子の足だった。

「ねえお願いがあるの」

 やばっ。足に見とれていた僕は慌てて顔を反らした。何食わぬ顔で彼女を見たつもりだけど、きっと顔が赤くなっていたに違いない。

「工場の裏にあるスカブスレート定着用の火炎放射器、貸してくれないかな?」

 ああ、小さな唇。でもぷっくりとしていて、それに声も透き通っていて僕の好みだ。ああ、違うって! 今、彼女は僕に火炎放射器のことを尋ねて来たんだ。火炎放射器か、確かに工場の裏にあったけど。

「ん?」

 彼女の服の裾についている汚れに、僕の目が止まった。オイルだ。水色のワンピースに茶色い染みを作ってしまっている。まさか、どこかで転んだとか? それとも。ともかく、彼女に何かあったのではないかと思い、僕は汚れを指差した。

「ど、どうしたの?」

「ああ、これ?」

 彼女は小首を傾げた。水色の髪が肩にかかる。

「だってあなたの部屋、壊しちゃったでしょ。私のせいで皆に酷いことしちゃったんだもの。せめてものことくらいはしておかないと」

 感動ッス! せめてものことくらいって何が何だか分からないけど、彼女は何かをしてくれるらしいッス。わざわざ、僕のために!

「スッゲーッス、超いい子ッス!」

 思わずビシッ! と親指が立ってしまったところに、彼女の怪訝な声が突き刺さる。

「何?」

 うがが。これではまた変態だと思われてしまう。彼女の気を反らさないと。僕はきょろきょろと辺りを見回した。そうだ、コンパクドライブ。コンパクドライブのことを話してみよう。

「いや、その、このLFOコンパクドライブついてないだけど」

 無反応。あ、あれ。変なことなんか言ってないよな、僕。

「ソ、ソケットしかないんですけど」

「ああ、あれ。最初からついてなかったし、意味ないからいらないよ」

「ええと、ええと」

 この子が昨日、カットバックドロップターンを決めたんだよね。つまりLFOに乗っていた。そんな子がコンパクドライブの重要性を知らないはずはないけど、コンパクドライブなしで操縦していたから、いきなり波から落っこちたのかも知れない。

「あのね、LFOを動かすには人とマシンを繋ぐ媒介であるドライブっていうのが必要なんだ。それなしでは、人は機械を動かせないんだ。分かってるよね?」

 僕は額に指を当てながら、出来るだけ簡潔にコンパクドライブについて説明した。

 だけど彼女は、ん? とまた首を傾げる。

「耐えられない!」

その仕草のあどけなさときたらもう、可愛いッス! それしか言えないッス。

「よーし分かった。それじゃ俺のを付けてみよう、実験だ」

 僕はコンパクドライブを取り出した。

「大丈夫かな」

「大丈夫ですよ、こう見えても俺、プロのメカニックですから」

 コンパクドライブをユニットに挿す。よし、これでコンパクドライブに反応が見られるはずだ。彼女もきっと、コンパクドライブの重要性を分かってくれる。

「俺くらいのメカニックになると、機械にも心があるって分かるんですよ」

 振り返り様に、僕はぴっと親指を立てた。決まった。僕、ちょっと格好よくない?

 そう思ったのは僕だけのようだった。彼女はすっと両目を細める。

「何言ってるのよ? そんなの当たり前じゃない」

 どうでもよさそうに言うと、彼女は立ち上がった。

「じゃ、火炎放射器、借りてくね」

 ぽかん、と僕は口を開けて彼女の白い足、ではくて後姿を見送った。それから目を瞬かせる。彼女は言った。機械に心があるのは当たり前だって。こんなこと、友達はもちろん、じっちゃんすらまともに聞いてくれなかったのに。

――姉さん凄いです。俺の言うことを変に思わない、理想の女の子です。何かちょっと変わってるけど、ぶっ壊した俺の部屋を気に病んで、火炎放射器で火を、火を……火!?

 かか、彼女は火炎放射器で何をするつもりなんだ!? まま、まさか!


「あああ!」

 し、信じられるでしょうか皆さん。昨日、LFOに木っ端微塵にされた僕の部屋が、僕の部屋が、真っ赤な炎に包まれています! ぱちぱち音をたてて、燃えています!

「な……なななにをなさってるんで」

 僕はしゃがみこんで手を合わせる彼女に声をかけた。彼女の側には、僕の部屋を燃やしたスカブスレート定着用の火炎放射器が転がっている。その威力は、僕の部屋で実証済みだ。

「弔い」

「弔い?」

 弔いって、そりゃ確かに僕の部屋は君にぶっ壊された訳ですが。

「いや誰も死んでないですし」

 って、こんなこと言ってる場合じゃない。まだこの中には僕の宝物がある。いくらLFOに部屋がぶっ壊されたからって、何もかもなくなった訳じゃない。は、早く火を消さなきゃ。

「う! つーかちょっと待って、まだ使えるもんが……うあちい!」

 炎を消そうと踏み出した靴があっという間に焼け焦げ、嫌な匂いが当たりに立ち込める。転げまわりながら靴の火を消しつつ、それでも僕は炎の中へ手を伸ばした。

「お、俺のクリエが! 弔われちまう! 俺のぉ~……!」


 僕の部屋の弔いから一時間。僕と彼女はニルヴァーシュのコックピットにいた。コンパクドライブをもう一度ニルヴァーシュに挿すためだ。僕の部屋、特にクリエが弔われてしまったのは悲しいけど、今の僕にはニルヴァーシュがある。彼女がいる。だから、気にしないことにした。気にしだしたら……うう、涙が出てくる。

「ええ、おっかしいな~」

 コンパクドライブを挿しても、ニルヴァーシュは無反応だった。普通、LFOをさせば何らかの反応が見られるはずだ。それなのに反応が現れないということは、どういうことだ? 僕は首を捻るしかなかった。

「やっぱり外してよ」

「あ、いや、でも」

「今までなくても動いてたんだし、それに、知らないものは信じられないから」

 淋しい口調だ。信じられないという言葉以上に、その響きは僕をたじろがせた。

「信じられないって、そんな……」

「それに、信じたからといって、どうにかなるわけじゃないじゃない」

 紫色の綺麗な瞳は、どこか遠くを見つめている。僕なんかは一生届きそうにない、遥か彼方を。僕は不意に、彼女をとても遠くの存在に感じた。

「信じすぎちゃったことでで、不幸になることもある。信じることが、辛いことだってあるんだよ」

「そんな……」

 そんなこと、ないはずだ。姉さんは言った。僕に言ってくれたんだ。信じていれば、信じる心は裏切らない。いつか、信じる力は現実になるんだって。

「でも……!」

 僕は彼女に伝えたかった。姉さんの言葉は嘘じゃない。嘘じゃないって信じていれば、きっといつか現実になること。だから君も、君が信じようとしないものを信じていいんだって。

「お前さん、ホランドの仲間だな」

 いつの間にか、にわとり頭のじっちゃんが険しい表情で僕たち、正確には彼女を見下ろしていた。

「じっちゃん」

「いや、そんなことはどうでもいい。誰が来ようと渡すつもりでいたんだ」

 じっちゃんは手に持っていた箱を開けた。

「何だよ、役所行ってたんじゃないのかよ」

「これだな」

「あ?」

 箱の中から出てきたのは、紫色のプラグのようなもの。じっちゃんはそれを彼女に突き出した。

「お前さんが来た目的は。こんなもんのせいででわしの家はバラバラになってしまった。持って行きたければ持って行け。そして」

 じっちゃんのこめかみに血管が浮かぶ。雷を落とす時の癖だ。

「二度とわしらの前に現れんでくれ!」

「じっちゃん、そんな言い方ないじゃんか!」

 彼女が、ますます暗い顔になってしまった。せっかく、僕が姉さんの言葉を伝えようとしたのに。

「大体なんだよ、いきなりやってきてさぁ」

 台無しだよ、まったく。僕が眉をしかめるとほぼ同時に、彼女がLFOの操縦桿を握った。急に引き締まった表情になった彼女は、短く叫んだ。

「掴まってて!」

「どうしたの?」

 彼女は返事の代わりに、ニルヴァーシュを発進させた。メインブースターが火を噴き、僕の体が後ろへ物凄い勢いで引っ張られる。これが、LFOの加速。こんなの、リフじゃ経験したことがない。

 一秒も経たない内にニルヴァーシュはドッグを突き破り、その直後爆風が僕を襲った。熱い。これはニルヴァーシュのバックファイアじゃない。何かがドッグに飛来し、爆発したんだ。爆風から身を守るようにして、ニルヴァーシュのコックピットが閉じられる。そしてそのままニルヴァーシュはビーグルモードへ。一気に離脱するつもりだ。

 必死にニルヴァーシュにしがみつきながら、僕はちらりと横に目をやった。じっちゃんもちゃんと掴まっているのか確認しようとしたのだ。でも、じっちゃんの姿はなかった。じっちゃんは、地面に転がっている。今のビーグルモードへの移行で振り落とされてしまったのだろう。

「じっちゃん!」

 僕はニルヴァーシュを飛び降り、前のめりになりながらじっちゃんに駆け寄った。よかった。体のあちこちを擦りむいているけど、低く呻いているし、命に別状はなさそうだ。

 ほっと一息つき、僕は空を仰いだ。ニルヴァーシュと軍のLFOがトラパーを引きながら舞う空、その彼方に戦艦が見える。何なんだ、何だって軍隊がこんなところまででしゃばってくるんだ。しかもじっちゃんと僕の家にミサイルをぶち込んでくるなんて。

「レントン……」

 じっちゃんが意識を取り戻した。僕はじっちゃんの背中に手を回し、じっちゃんが起き上がるのを手伝った。

「じっちゃん」

「ニルヴァーシュはどうした?」

 僕は顎を空に向けた。ニルヴァーシュは縦横無尽に波に乗り、軍のLFOを翻弄している。彼女の乗るニルヴァーシュが。

「レントン。あの娘っ子にこれを届けてやれ。このコンパクドライブの拡張パーツ、アミタドライブを」

「アミタドライブ?」

 あの紫色のプラグ――アミタドライブが僕の手に乗せられる。

「そうだ。これを乗せれば悟りは開かれ、あのLFOは真に目覚める。そう、お前の親父はいっとった」

「父さんが?」

「行け、レントン。そいつを使って、皆消えてもらっちまえ!」

 僕はアミタドライブを握り締めた。軽い。こんなものがニルヴァーシュの力に、彼女の力になるかどうかは分からなかった。

 だけど、僕は。

 スクーターを走らせた。


 ――別に俺は、じっちゃんに言われたからこんな無茶なことをしようと思ったわけじゃないんだ、姉さん。

 僕はスポットへスクーターを走らせる。あの子の元へ、波に乗るためには、スポットへ行くしかない。

 ――ただ俺は、さっき言えなかったことを、あの子に伝えなきゃいけないって、思っただけなんだ。あの時、姉さんが言っていたことを。俺が、今信じていることを。

 見えた、スポットだ。軍のフェンスなんか知るか。僕はフェンスに突撃し、スポットの中にスクーターを滑り込ませた。

 ――だから、行くぞレントン、行くぞ俺。

 ――俺はあの子のところへ飛んでいく!

 スポットの斜面を駆け上り、僕はスクーターから手を離した。リフをスクーターから外す。

 波を信じる。信じれば、僕だって!

「うおりゃああああ!」

 スクーターが宙に吹っ飛び、僕の体がふわりと軽くなる。でもそれは一瞬で、リフト共に僕の体は重力に引かれていく。

 近づいてくる、奈落の底。

 ――あれ? ちょっとやばくない? 高すぎない、これ? 大丈夫、大丈夫なの、俺? 本当に、大丈夫なのぉっ!?



つづく!
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