注意書き:予告どおり、ウチで作ったエウレカの最終回の一発目。長くなりそうなのでA、B、Cの3パートに分けます。今日はAパートのみ。Bは明日公開できなかったら終末にずれこむ可能性アリです。スミマセン。
で、本来ならモノを作る時ってのはプロット(設計図)を作らなければお話にならないのですが、さすがにそこまでやる時間はなかったので基本的に「星に願いを」のプロットを下敷きにしています。
んが、同じ台詞やシーンは一切ありません。ニルヴァーシュ進化型の「アイ・キャン・フライ」もありません。ウチではボロボロになったニルヴァーシュに頑張ってもらうことにしました。ホランドの死亡フラグも続いています。最終話が最高だ! と思う人は見ない方が賢明でしょう。最終話に不満を持った人間が書いたものですからね。まぁ、Aパートでは話がそこまでは進みませんが。
ただし、私はエウレカセブンという作品が好きだったので、それを真っ向から否定するようなことはしません。むしろ、エウレカセブンが使ってきた手法「対比」や「繰り返し」などの被せの演出を「星に願いを」以上に使っていきます。印象的な台詞はバンバン引用します。
「レントン。ママ、どうなっちゃうの?」
涙を溜めた緑色の瞳がレントンを見上げた。メーテルは、ニルヴァーシュのサブシートに座っている。一瞬前まで、エウレカがいた場所に。
パートナーのいないサブシートは妙に白々しいものに、レントンの目に映った。何が起きたのか、どうしてこんなことになったのか。レントンには理解できなかった。
レントンはのろのろと〝それ〟を見上げた。オラトリオNo.8によって空けられた大穴を、一本の巨大な樹が貫いている。かつてここに存在した司令クラスターに似ているが、〝それ〟はあまりに巨大だった。スカブによって作られた偽りの空を貫き、テンシャン山脈の大穴を貫き、そして――宇宙にまで達している。
この大樹がエウレカらしい。混乱する頭で出せる結論は、その程度のものだった。
「ねぇ、レントン……」
縋るようなメーテルの声で、レントンは我に返った。気づけば、モーリスやリンクもメーテルと同じようにレントンを見上げていた。エウレカの子供達。
呆然とするばかりだったレントンの目に力がこもった。
この子達から、二度も母親を奪っていいはずがない。そんな世界は、結末は、認められない。間違っている。レントンは三人を抱き締めた。安心させるように、強く。
「……大丈夫」
レントンは大樹――エウレカを見つめた。
「大丈夫だよ、皆。俺が、ママを取り戻してくるから」
「でも、ママは消えちゃったんだ。何とかってどうするんだよ……無理だよ、無理だ」
ぼろぼろと、モーリスの両目から涙が零れた。彼の不安が幼い子供達にも伝染し、瞬く間に涙が盛り上がっていく。
三人の涙を拭いてやりながら、レントンは微笑んだ。
「ニルヴァーシュがある。俺たちには、まだニルヴァーシュが残されているんだ」
自らを鼓舞するように、少年は愛機の魂魄ドライブに触れた。
交響詩篇エウレカセブン最終話「どういうことなんだ! ええ、答えろよドクター・ベア!」
ゲッコー号のブリッジに怒声が轟いた。タルホに支えられたホランドが、風船のような体をした男――ドクター・ベアに掴みかかる。青ざめた顔に鬼のような形相を刻むホランドの背後には、大樹が聳えている。アドロック・サーストンに託された少女の成れの果て。
「デュ、デューイは自らの死を引き金としていたんだ」
ホランドに気圧されてはいたが、ドクター・ベアは何の痛みも感じていなかった。贅肉だらけの首を掴まれているからではない。贅肉とて、痛みは感じる。
TB303・デビルフィッシュ。ライダーの肉体と精神を削るあの機体によって、ホランドは酷く消耗しているのだ。
303は大破したが、これ以上LFOを操縦すれば死に至るだろう。いや、何もしなくとも肉体は朽ち果てるかもしれない。もっとも、それを告げたところで何の意味もない。
余計な考えを振り払い、ドクター・ベアは、ずれた眼鏡をかけなおした。
「彼の死により、エウレカとアネモネに取り付けられた首輪が彼女たちをスカブへと変質させる。いや、元に戻すというべきか。エウレカはスカブから生み出されたもので、ただ単に人の形を取っているにすぎ――」
「ごたくはいい。要点を言ってくれ」
「エウレカは司令クラスターに仕立て上げられるよう、あらかじめ首輪によってプログラムされていたんだ。そして、首輪にはもう一つのプログラムが組み込まれていた」
本来ならばCFS――コンパクフィードバックシステムとの関連性も説明したいところだが、ドクターは堪えた。世界にもホランドにも、あまり時間は残されていない。
「自壊プログラムだ。全スカブに自殺するよう、指令を送るんだ。だけど、考えても見てくれ。いきなり自殺しろといわれて、誰が出来る? パニックを起こしたスカブが何をしたか、君も知っているだろう、ホランド」
「塔の街の壊滅……俺たちを道連れにするってのか」
ずるりと、ホランドの手が落ちた。今の彼の瞳は、道を彷徨う旅人に似ている。ドクターは静かに首を振った。辿るべき道を失ったのは、自分とて同じなのだ。
「分からない。その前にスカブが全滅するかもしれないし、クダンの限界が訪れるかもしれない。デューイが何を狙っていたにしろ、僕らの完全な敗北だよ。打つ手はない」
「くそう……あんたは何がしたかったんだ、デューイ!」
「今、かろうじて現状が保たれているのは他ならぬエウレカのおかげだ。彼女は指令クラスターになることを拒んでいる。でなければ、世界はとうに変質しているはずだ」
「だが、だがよ……司令クラスターがなければスカブは」
「パニック状態だろう。統括者を失い、今もまだ不在だからね……どちらにせよ、クダンの限界を引き起こす可能性はある」
「奇跡が起きるのを願うしかないってのか……!」
ドクターには、これ以上語る言葉が残されていなかった。司令クラスターと化した人型コーラリアンの少女を、ただ見つめた。
奇跡は、起きそうになかった。
数日ぶりに戻ってきたゲッコー号は、ニルヴァーシュのサブシートと同じく空々しさだけが満ちていた。泣き疲れた子供達を寝かしつけた後、レントンは自室に戻った。
薄暗い部屋にリフボードや、ドッキリで使用されたジャージ、着替えが転がっている。タルホが畳んでくれたのか、着替えは綺麗に整頓されていた。新しい靴まである。
レントンは早速、靴を交換した。地球を歩き回ったせいで、靴はボロボロだった。思えば、ゲッコー号から逃げ出した時も同じ靴を履いていた。ベルフォレストを飛び出した時も。
旅の終わり。
ふいに、そんな言葉が浮かんで、レントンは「お疲れ様」と呟いていた。
着替えを終え、リフボードを掴むとレントンは部屋を後にした。格納庫まで走る。
「ニルヴァーシュ……」
ゲッコー号に収容――いや、回収されたニルヴァーシュは無残な有様だった。装甲の殆どが剥がれ落ち、左足は吹き飛んでいる。ぐったりと垂れた頭部からは、機械特有の無機質さしか感じられず、レントンは胸を痛めた。メカニックの彼でなくとも、ニルヴァーシュがもはやスクラップに過ぎないことは明らかだ。
それでも、レントンはターミナス606や808を使用する気にはなれなかった。
ニルヴァーシュでなければ駄目だ――何故か、そう思えてならないのだった。
レントンは半壊した愛機を見上げた。
「覚えているかい、前にもこうして俺と君でエウレカを救いにいったよね。チャールズさんのスピアヘッドと戦ったのもあの時だった……」
――自らに偽らず決めた事なら俺達は受け入れる。必ず貫け。
パパと慕った男の言葉が蘇る。
レントンは格納庫脇に立て掛けられたLFO用のボードに目をやった。チャールズとの戦闘を乗り切った、ニルヴァーシュのボードだ。変型機構の関係でSpec2では使用しなかったが、トラパーに乗る程度なら問題はない。
「このまま、終わるわけにはいかないよな。何が出来るか分からなくても、何も出来なくても、俺は行かなきゃいけない。貫かなきゃならないんだ。だから、あともう少しだけ付き合っておくれ……ニルヴァーシュ」
ニルヴァーシュの足に触れ、レントンはシートに乗り込んだ。リフボードを脇にやり、インターカムを装備する。ブリッジにハッチを開放するよう呼びかけようとしたレントンはしかし、ぴたりと動きを止める。
「これは……」
シート内に微弱な光が満ちていた。魂魄ドライブ――人とスカブを結びつけるツール。アドロック・サーストンからダイアン・サーストンへ、そしてレントン・サーストンへと連綿と受け継がれてきた「EUREKA」の魂魄ドライブ。
その魂魄ドライブに今、新たな文字が刻まれていた。
――
RENTON 続く
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